仲正昌樹『今こそアーレントを読み直す』

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

今こそアーレントを読み直す (講談社現代新書)

仲正昌樹『今こそアーレントを読み直す』を読んだ。『「分かりやすさ」の罠』と共通する部分が多いので、アーレントファンでなく仲正ファンにはオススメできない、かな。アーレントの読解としてはオーソドックスなもので、驚くような発見もない代わりに、格別批判する点も思いつかない。仲正先生は「匿名性」に対する評価が辛すぎるのではないか、と思った程度。
アーレント的な公私二分論――経済や生活といった個別の利害関係は私的領域、公的領域では共通善についての討議を行う――を踏襲するのであれば、利害関係を持ち込まざるを得ない「本名」こそ公的領域から排除するべきじゃないの、と言えそうな感じがする。あと、公共圏においては「本来の自分」という概念を倒錯として排除し、「仮面そのものが人格」だというのがアーレントの公共性論であるわけで、その点からもハンドルネームの公共性はもっと肯定的に捉えてよいのではないかな、と。ただ、仲正先生がハンドルネームを認めていないわけではもちろんないし、攻撃の対象はあくまで2ch的な匿名性に限定されている。それでもやはり、身元を明らかにすることが本当に公共圏における議論の充実の実現に繋がるのかという疑問は残る。本筋に関係のない部分にばかり突っ込むのもアレなので、これくらいで。
あと、アーレントは「利益の追求」だとか「生存の保障」といった問題が、それこそ普遍的なテーマで多様な見解を生み出さないが故に公的領域の議論から締め出してしまったわけだけど、果たしてその見方は正しいのか、という点について仲正先生の意見を聞かせて欲しかったかな。
アーレントと公共性については、斉藤純一『公共性』が良書だと思われるので、そちらもオススメしておく。
公共性 (思考のフロンティア)

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