2008-01-01から1年間の記事一覧

谷川道雄『隋唐世界帝国の形成』

隋唐世界帝国の形成 (講談社学術文庫)作者: 谷川道雄出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/09/10メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (5件) を見る今回は勉強のため、内容のまとめに徹します。 前漢においては武帝時代の外征に象徴されるよう…

クエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』

何の前情報なしに観て驚愕。今まで取っておいた自分を褒めたくなるくらい面白かった。タランティーノの代表作に挙げる人が多いのも納得。まるで無駄なことをべらべらと話しているように見える脚本も、時系列を組み替えた構成も、観終わったあとには「これ以…

竹内好について

ゼミの後輩が竹内好についての発表を行ったのを聞いて、個人的にも竹内の書いた文章を読み直してみた。中国へ兵隊として向かう直前に書かれた『魯迅』にはこうある。 魯迅の根本思想は人は生きねばならぬといふことである。それを李長之は直ちに進化論的思想…

竹村民郎・鈴木貞美編『関西モダニズム再考』

関西モダニズム再考作者: 竹村民郎,鈴木貞美出版社/メーカー: 思文閣出版発売日: 2008/02メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (5件) を見る東京中心史観を離れ、明治以降の関西から「近代」を問い直していこうという、比較的漠然とした問題…

片山杜秀『近代日本の右翼思想』

近代日本の右翼思想 (講談社選書メチエ)作者: 片山杜秀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/09/11メディア: 単行本購入: 10人 クリック: 210回この商品を含むブログ (43件) を見る日露戦争後から第二次大戦までの右翼思想を包括的に扱おうと試みた、意欲的…

ルイス・ブニュエル『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』

ブルジョワジーの密かな愉しみ [DVD]出版社/メーカー: 東北新社発売日: 2001/01/30メディア: DVD クリック: 9回この商品を含むブログ (13件) を見る凄いものを見てしまった。反権力だとか反キリスト教といったブニュエルらしいテーマを、この上なく軽く、そ…

高尾・神護寺

京城の西北三里許りに在り。山の形、鷹の尾に似たり。故に或いは鷹尾山と称す。紅楓の名区也。 黒川道祐『雍州府志』(1686.9) 神護寺の大師堂(弘法大師を祀るお堂)の内部が初めて一般公開されたと聞き、天気も良かったので、自転車に乗って行ってきた。 京都…

『SAW』

ソウ [UMD]出版社/メーカー: アスミック・エース発売日: 2005/10/26メディア: UMD Universal Media Disc クリック: 7回この商品を含むブログ (74件) を見るミステリィファンが言うところの「意外なクライマックス」というやつで、見終わった直後は拍手喝采、…

最近噂になっている懸賞論文を読んだ。満州事変はどこいった。 昔、戦前の陸軍士官学校では幼年学校から陸大まで一度も政治に関する講義がなかったという話を聞いて、なるほどなーと納得したことを思い出した。現代はどうなのか、知らない。 あと、ユルゲン…

明治国家と平安文化

京都在住4年目にして初めて時代祭に参加した。バイトとしてではあるが、比較的じっくりと見られたので、覚え書き程度に時代祭の歴史的位置づけについて書いておこう。一応まじめに働いていたので、写真は無し。 時代祭というのはそもそも、明治二十八年に行…

大原・三千院

「京都 大原 三千院 恋に疲れた女がひとり」(『女ひとり』)で有名な大原に行ってきた。歌はこの後「京都 栂尾 高山寺」「京都 嵐山 大覚寺」と続くわけだが、それだけ歩き回れば恋をしてなくても疲れるだろう。 大原の地名は天徳元年(957)に牛馬を飼育する「…

「守護領国制論の展開とそれに対する批判」

パソコンの中から2年ほど前に書いた中世国家論研究史のレポートを発掘。永原慶二や網野善彦の話をしたついでに公開してみよう。先回りして言い訳しておくと、私の専門はあくまで近代史なので、過度な期待しない方が良いと思う。 1.はじめに この小論では、…

永原慶二『20世紀日本の歴史学』

20世紀日本の歴史学作者: 永原慶二出版社/メーカー: 吉川弘文館発売日: 2003/03/01メディア: 単行本 クリック: 5回この商品を含むブログ (6件) を見る明治維新から1980年代までの歴史学(主に日本史)の展開を平易な記述で語りなおした名著。最近つまらない本…

デイヴィッド・リンチ『イレイザーヘッド』

一度見て途中で寝てしまい、もう一度見て「これは面白い!」と画面に釘付けになった作品。若くして家庭を持ったリンチ監督の不安が投影されていると言われるが、僕の印象だとより根源的な生の問題、「人が生まれ、生活し、死んでいく」という現象そのものが…

萩原朔太郎『日本への回帰―我が独り歌へるうた―』1937.12

萩原朔太郎は1886年生まれの作家・詩人。石川啄木や谷崎潤一郎と同年の生まれであり、日本の「西洋化」を体験してきた世代である。『月に吠える』(1917)『青猫』(1923)によって口語自由詩を確立したが、後の『氷島』(1933)で文語体に回帰。今回取り上げるエ…

終戦と天皇制

八月十五日の神話 終戦記念日のメディア学 ちくま新書 (544)作者: 佐藤卓己出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2005/07/06メディア: 新書購入: 6人 クリック: 442回この商品を含むブログ (131件) を見る最近『八月十五日の神話』という新書を読んだのだが、こ…

新藤兼人『裸の島』

裸の島 [DVD]出版社/メーカー: 角川映画発売日: 2001/08/10メディア: DVD クリック: 29回この商品を含むブログ (29件) を見る映画における声の問題について考えてみたい。 現代の私たちにとって声を欠いたサイレント映画がある意味では不完全な映画と考えら…

高梁・頼久寺

この頼久寺は、江戸時代初期の茶人・小堀遠州が父の後をついで備中国奉行となった際に仮の住居とした場所で、庭園もその時に作庭されたと伝えられている。私の記憶では、遠州が作庭を行ったという確実な記録は存在せず、正確には「伝・遠州作」とするのが正…

尾道・浄土寺

更新を休んでいた間、山陽の古寺や庭園を回っていた。 最初に訪れたのは尾道の浄土寺。多数の国宝・重文を有するこの寺は、鎌倉時代から在地の有力商人たちの財力によって維持されてきた。そもそも商港・尾道のルーツはかつて後白河法皇の荘園・太田荘の倉敷…

柏木義円「渡瀬氏の『朝鮮教化の急務』を読む」1914.4

柏木義円は同志社出身の牧師で、明治三十一年から38年間に渡って刊行された『上毛教会月報』によってその名を知られている。日本組合教会に所属していたが、同教会が総督府の依頼を受けて朝鮮伝道を始めると、それに強く反対した。以下の引用文は、朝鮮伝道…

沢田謙「都市の反逆」1923.9

沢田謙は戦後、偕成社から伝記シリーズを多数出版した児童文学者である。ただし、戦前にはここで引用するような社会時評的な活動も行っていたことは、現在ではあまり知られていない。昭和期には『ヒットラー伝』『ムッソリーニ伝』とプロパガンダ的なものを…

天皇機関説と国民道徳

世の学生の例に漏れず期末試験対策でちょっと忙しいのだが、そうすると、まったく緊急性の無いことを調べたくなるのが人情というものである。そこで今回は、明治四十五年に雑誌『太陽』に掲載された美濃部達吉「上杉博士の「国体に関する異説」を読む」を通…

『太平洋戦争と新聞』−新聞の変容

太平洋戦争と新聞 (講談社学術文庫)作者: 前坂俊之出版社/メーカー: 講談社発売日: 2007/05/11メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 10回この商品を含むブログ (12件) を見るちょっと出来事を調べる分には便利だし、軍民離間問題の話はなかなか興味深いかった…

アルベール・カミュ『異邦人』

異邦人 (新潮文庫)作者: カミュ,窪田啓作出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1963/07/02メディア: 文庫購入: 21人 クリック: 167回この商品を含むブログ (412件) を見る勝手にカミュのことを実存主義者だと思い込んでいて、そのつもりで『異邦人』を読んだので…

ロアルド・ダール『あなたに似た人』

あなたに似た人 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 22-1))作者: ロアルド・ダール,Roald Dahl,田村隆一出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1976/04/20メディア: 文庫購入: 26人 クリック: 276回この商品を含むブログ (90件) を見る短編の美学をつめ込んだ一冊。た…

大日方克己『古代国家と年中行事』

古代国家と年中行事 (講談社学術文庫)作者: 大日方克己出版社/メーカー: 講談社発売日: 2008/02/07メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る主に奈良から平安期を対象として、朝廷によって運営された年中行事の成り立ちと、…

民本主義と普通選挙

今回のテーマは民本主義であるが、主に吉野作造の考えを中心にして議論を展開していこうと思う。 大正五年(1916)の『中央公論』に掲載された論文「憲政の本義を説いて其有終の美を済すの途を論ず」で吉野は、立憲政治の根本精神に「民本主義」の名前を与え、…

バタイユと戦争

澁澤龍彦を通してジョルジュ・バタイユを知った私にとって、バタイユという思想家はエロ・グロ・ナンセンスな作品に触れるときに思い出す程度の神秘主義者でしかなかった。 しかし最近、冷戦下におけるバタイユの思想展開を調べているうちに、どうもそうでは…

学校の二宮金次郎像と社会教育の関係

今でも小学校の片隅に二宮金次郎(尊徳)の銅像を見かけることがある。最近ではすっかり数が減ったとも聞くが、僕が通っていた小学生では当時(十年くらい前)、校庭の片隅に薪を背負って本を読みながら歩く二宮金次郎が立っていて、今でも「勤勉」という言葉を…

日高敏隆『動物という文化』

動物という文化 (講談社学術文庫)作者: 日高敏隆出版社/メーカー: 講談社発売日: 1988/12メディア: 文庫 クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る生物学に関してはまるっきり素人の僕にもすんなりと頭に入ってくる、素晴らしい入門書。動物の体って…