ルイス・ブニュエル『ブルジョワジーの秘かな愉しみ』

ブルジョワジーの密かな愉しみ [DVD]

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凄いものを見てしまった。反権力だとか反キリスト教といったブニュエルらしいテーマを、この上なく軽く、そして悪戯心たっぷりに描くことによって、何だかよくわからないものに仕上がっている。
ブルジョワ6人組が食事をしようとする度に邪魔が入り、何度挑戦しても食べられない……という話が延々と続くのだが、上流階級への痛烈な皮肉、「なぜか〜出来ない」がモチーフになっていることなどは『皆殺しの天使』とも共通する。要するに、不条理な状況にブルジョア連中を突き落として、彼らが慌てているところを見て楽しもうぜという趣向である。話がさっぱり先へと進まないという意味では、起承転結のはっきりした「ブルジョワ美学」への反逆とも読めるし、あるいは、いつまで経っても食事が取れない=欲求不満が解消されず、代わって頻繁に描かれるセックス描写でそれを吐き出しているブルジョワジーの貪欲さを描いたものであるとも読めるだろう。
しかし実際の映画からは、上記のような重たいテーマ性はまったく感じられない。まさに第一級のコメディ映画である。晩餐に軍隊が乱入してきたかと思えば、ある兵士は突然立ち上がり昨日みた夢の話を始め、別のシーンでは夢の中で夢を描くという型破りなことを平然とやってのける。登場人物たちには聞こえている会話が、僕たちには聞くことが出来なかったりもする。そういったあからさまな妨害によって、僕たちは資本主義の問題よりもまずブニュエルの悪戯心に関心が向けられるのである。
それにしてもこの「なぜか〜出来ない」というモチーフには、当事者とは無関係な場所で事態が進行し、それに振り回されるものだという一種の諦観が感じられる。神の如きブルジョワジーでさえも世界の主役ではなく、また、原因と結果を明らかとするには世界は複雑すぎるのである、というような。