クエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』

何の前情報なしに観て驚愕。今まで取っておいた自分を褒めたくなるくらい面白かった。タランティーノの代表作に挙げる人が多いのも納得。まるで無駄なことをべらべらと話しているように見える脚本も、時系列を組み替えた構成も、観終わったあとには「これ以外にない」と思えるほど完璧なものに思えてくるから不思議だ。一種の馬鹿話でありながら、心が温まる話でもある。それは大げさな言い方かもしれないが、とにかくエンタテイメントとして申し分ない終わり方だと思った。
マクガフィンが出てくる辺りヒッチコックが好きなのかもしれないが、登場人物が持っているのと同じ情報を観客にも共有させることで「これからどうするんだ!」と感情移入させるドラマの作り方は、いかにもヒッチコック的だなと思った。台詞は多いが説明台詞はそれほどでもないのだから、ますます凄い。
オムニバス形式の作品だが、その中でも「金の時計」の話が一番面白かった。マフィアを裏切った男は、父親の形見の時計を取りに家へと戻り、マフィアのボスと鉢合わせする話。冒頭で時計の由来が語られるのだが、「ベトナム戦争で捕虜になった父親は時計を尻の穴に五年間隠していた」とか、そんな時計いらないだろとしか思えない話をする辺りが面白い(しかもそれを大真面目に、カメラは固定アングルのまま微動だにしない)。
全体の構成として一種の寓話にもなっていて、最後まで観ると「なるほど……」と唸らされる。とにかく格好良い映画だった。

パルプ・フィクション [DVD]

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