大日方克己『古代国家と年中行事』

古代国家と年中行事 (講談社学術文庫)

古代国家と年中行事 (講談社学術文庫)

主に奈良から平安期を対象として、朝廷によって運営された年中行事の成り立ちと、その存在意義について論じた一冊。古代国家にとって年中行事は、天皇や貴族を満足させるための個人的な性質だけでなく、その運営において諸官僚や各国の国司・郡司を総動員することで律令制の下における国家秩序を確認するという役割を持っていたのだ、という観点からそれぞれの年中行事を検討している。
俎上に上げられているのは「射礼・賭弓・弓場始」「五月五日節」「相撲節」「八月駒牽」「大晦日の儺」などである。「大晦日の儺」は一般に「追儺」と呼ばれ、現代ではもっぱら節分の日に各地の社寺で行われているが、もとは大晦日の宮中で行われる、目に見えない魔を払う行事であった。それがどうして節分の日に、目に見える方相氏(元は魔を祓う役割だった)を追う行事に変化してしまったのか。はっきりと書かれているわけではないが、律令制の要求から生まれた儺は、その律令制の崩壊と共に「全国家的行事」としての役割を失い、私的な行事として各寺社や貴族の邸宅に分散していった、ということだろう。
ただ古代の儺では、鬼を日本国の四至外に追放するという祝詞をあげ、天皇が統治する国の領域とその外を意識させる構造となっていたが、近世の尾張国で行われた儺でも、通りかかった通行人を捕らえて儺負いの人とし、それを追い払うことで国中の疫が祓われたとするものがある。疫は共同体の外からやってくるものであり、それを追い払うことで共同体の秩序を守る、という観念が続いているわけだ。