『白い恐怖』
- 出版社/メーカー: ファーストトレーディング
- 発売日: 2006/12/14
- メディア: DVD
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場面場面では面白いところもある。例えば4つの扉が順々に開いて行く映像で、主役の二人が結ばれたことを暗示するシーン。それと、男が老学者を殺そうとするが、老学者は機先を制して男に鎮静剤入りのミルクを飲ませる一連の動きは全て、眠らされる男の主観で描かれる。そして男がミルクを飲むのに合わせて、画面全体が白く染まる。この作品に限らず、夢遊病者を描く際にはしばしばその人物の視点にカメラが置かれるが、これはつまり、カメラのぶれで心理的な不安定さを表すのと、端的には客観的な視点が失われたことを示しているのだろう。
あとはダリの美術を背景に使った、男の悪夢。背景、特に人物の影が誇張して描かれており、主体が分裂してしまったような印象を受ける。しかし、夢の始まりと終りが明確に区切られており、分析的な視点でしか見られない。どこまでが夢かわからなくなるような危うさは全然感じられない。精神分析という「科学」をテーマにしたことで、そういった危うさが排除され、逆に映画的な面白さからは遠ざかってしまったように思う(では「映画的な面白さ」が何かと言えば、台詞と映像の不一致、決定不可能性といった意味のゆらぎであるわけです)。