『泥棒成金』

泥棒成金 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

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原題が「To catch a thief」だから、最初は微妙な訳だな、と思った。最後まで観ると、成金のお嬢さんが主人公の男の心を奪おうとする話、あるいは泥棒がお嬢さんと結婚して成金になる話という意味だとわかるのだけど、やっぱり微妙。原題のダブルミーニングが上手く伝わらないし、何より語感がよくない。ダサい。
主人公はヒッチコック作品常連のケイリー・グラントグレース・ケリー。成熟したヒーロー的男性と、情熱を内に秘めた淑女、といういつもの組み合わせ。グレース・ケリーは最初ツンと澄ました女性として描かれながら、いきなり主人公に抱きついてキスしてしまう。この作品ではグレース・ケリーとその母親の強引さが印象的で、むしろ主人公が目立たない。クライマックスでは、主人公とヒロインが結ばれたところで、ヒロインが「きっとここならママも気に入るわ」とつぶやき、主人公が「え?」という顔をしたところで終わる。
そういう愉快な話ではあるのだけど、あまり僕の好きな話ではないなぁ。「なぜ警察から逃げる?」といういつもの疑問と、ここという盛り上がりに欠ける。エモーションの変化に合わせてカットのサイズを変えるカメラワークも散漫な印象。風景が綺麗だから見せたいというのは理解できるのだけど。どうも風光明媚なところでロケした映画って、面白いものがないような気がする。ロッセリーニもドイツ三部作で「凄い!」と思ったのに、そのあと「イタリア旅行」を観て「えー」、と。ただ、見晴らしの良い場所で主人公が「落ちるんじゃないか」と心配するあたりは、とてもヒッチコック的だと思った。
まあ、はっきりいってどうでもいい話。泥棒に間違えられた元泥棒が、成金のお嬢さんの力を借りて真犯人を見つけ、ヒロインと結ばれる、という内容。いつものマンハント。終始ヒロインの方が積極的で、主人公にはむしろその気がない、という点が少し変わっているけど、その程度でしかないだろう。映画の冒頭、帆船模型の飾られたショーウインドに、「France」と書かれた紙が貼られている。そこはきっとアメリカだろう。それで舞台の説明は終わる。この簡潔さは良いと思った。
そういえばヒッチコック作品には「子ども」が出てこない。何かあったかな。ヒッチコックの怖いもの3つ(子ども、高所、警察)のうち、後ふたつは頻出するけど、なぜか子どもは出てこない。あと、DVDの特典映像でパトリシア・ヒッチコックやその娘が、訳知り顔にヒッチコック作品を語ってるのは何で?いや、君、出演すらしてないじゃん。といつも思う。