橋川文三『ナショナリズム―その神話と論理』

ナショナリズム―その神話と論理

ナショナリズム―その神話と論理

話題があちこちに移動したり論理展開がいまいちよくわからなかったり、そもそも本書がナショナリズムの何を論じようとしているのかも不明瞭で、「少々ぜいたくなノート」という著者本人の言葉は単なる謙遜とも言えないだろう。古典ではあるけれど、今あらためて読む必要性はそれほどなかったかなぁ、というのが率直な感想である。日本における国民国家の形成を、西洋の影響をほとんど無視して論じるのは無茶ではないだろうか。
ただ、この60年代という時期に、色川大吉安丸良夫、そして橋川文三といった人々がそろって「本来なら封建体制に奉仕する思想を徹底することで、逆に封建体制を攻撃することが可能になる」というモチーフを取り上げたこと、それにどのような背景があったのかを考えることには意味があるのかもしれない。すぐに思いつくのは安保闘争で、過激な左派知識人ではなく、穏健で保守的な生活者が国家に対する批判者になりえた理由を考えると、こういう逆説的な論理を取らざるを得なかったのかなぁ、と。