吉川幸次郎・三好達治『新唐詩選』

新唐詩選 (岩波新書)

新唐詩選 (岩波新書)

国語は好きだったが、国語の授業は嫌いだった。要するに人の話を聞くのが退屈だったので、いつも授業の内容とは関係のない小説や詩を読んで時間を潰していたのである。特に漢詩にはお世話になった。
この本を買った理由は、その懐かしい友人に会うため、というのがひとつ。もうひとつは、自身が文章を書くようになって、行から行への「飛躍の力学」を学びたい、と思うようになったため。
詩に限らず、文学はそれを必要だと思ったときに読むのが一番楽しい。教養だからって読みたくもないときに読んでも身につかないだろうさ、と。
それにしても杜甫の詩の面白さと言ったら。特に「国破れ山河在り」というフレーズは何回読んでも凄い。

春望     春の望(なが)め

国破山河在  国破れ山河在り
城春草木深  城春にして草木深し
感時花濺涙  時に感じて花も涙を濺ぎ
恨別鳥驚心  別れを恨みて鳥も心を驚かす
烽火連三月  烽火は三月に連なり
家書抵万金  家書は万金に抵る
白頭掻更短  白頭の掻きて更に短く
渾欲不勝簪  渾べて簪に勝えざらんと欲す

流れ行く時間と、確固として「在る」自然との対比。地に咲く花と、空を行く鳥。家族に対するストレートな愛情表現、鬱々とした杜甫の心情。そういったダイナミックな対比構造と、近いフレーズを繰り返すリズムの良さ。いつも鞄に入れておきたい類の詩だと思う。